怠惰な生活を送る青年の日記

社会の片隅でひっそり生活しています。

暴力の解剖学

反社会的な行動を取る人の要因を脳の構造や遺伝子の観点から紐解いていく書籍。

結論から言うと、犯罪に関する遺伝子というのは存在する。本書によると、反社会的な行動は脳の一部の領域の働きや遺伝子の影響を受けて引き起こされることが分かっている。性善説の考えをお持ちの人は信じたくないかもしれないが、犯罪を起こす可能性の高い遺伝子というものは紛れもなく存在し、そこに恵まれない環境要因が加わることで反社会的な行動、なかでも暴力的な行動が発生する。

犯罪と関係のある要因としては、神経伝達物質の働き(セロトニンやドーパミンの高低)実の両親が犯罪者である場合、染色体異常(XYY症候群)、前頭葉の損傷、低IQ 、学習障害などがある。しかし、犯罪に関係のある遺伝子や脳の構造であるからといってすべての人が反社会的な行動を引き起こすわけではない。そこに恵まれない環境要因が加わることで、反社会的な行動が引き起こされる。ということは、環境に恵まれていれば、犯罪が発生しない可能性は十分にある。しかし、そもそも犯罪に関係する遺伝子や脳の構造を持っている人は、社会的環境にも恵まれない傾向にあるのではないかと思う。それが結果として、犯罪の発生に繋がっている。

というのも現代社会というのは、社会にとって都合の良い人材であることを求めている。現代社会は、学校のテストの点数やスポーツテストの順位など、目に見える点数や順位によって人を評価する。そうした評価基準を用いて人を評価するのであるから、犯罪と関わりのある特徴を持っている人(低IQや学習障害、脳の機能不全、認知のゆがみ等)はそれだけ周りから不遇な扱いを受けやすくなる。そうすると、自己肯定感を育むことが難しくなり、フラストレーションばかりが蓄積されていって、不満が他人へと向けられてしまう。そうした経験が積み重なった結果、社会や他人への反発として法律や倫理に背くような行動を平気で取るようになる。

こういう人に対してどのような言葉を投げかけてあげればよいのか、また、社会はどう対処していけばいいのか。犯罪を起こしうる遺伝子を持っていたとしても、それは個人にはどうしようもないことである。ましてやその遺伝子を受け継ぐかどうかの選択権を本人は持てないし、自ら自分好みの遺伝子を選択することもできない。すべては「運」の一言で片づけられる。こうした本人の意思によってどうすることもできないことを、本人だけのせいにするのもある意味酷なことである。

全員が同じ性質や能力を持つ個体ではないのに、全員に対して画一的な教育をして社会に適応するように要求することが、こうした人間を生み出している側面があるように思う。したがって、こうした人たちが存在することを前提として教育制度や社会制度を見直す必要があると思うが、現代の社会にそれを期待するのは些か難しい話なのかもしれない。

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