怠惰な生活を送る青年の日記

社会の片隅でひっそり生活しています。

森田療法の効用性

森田療法では物事に対して感じたことに「あるがままの心」でいることが大切だと言われている。それがたとえ自分の生命を脅かすものであったとしても、その感情を否定しないでそれを受け入れて生きるというのが森田療法の考え方である。 

しかし、いざそれを実践してみても、それを実行するのはとても難しいことだということがよくわかる。それは人間には自分を少しでもより良く見せたいという心理があって、そうした心理が働いて自分を強く見せようとしたり、自分の脆弱な部分を隠そうとしたりするからだ。

人々をこうした行動へと引き寄せるのは、個々人の性質や考え方の影響を受けてのことでもあろうが、それも元を辿っていけば、セクシャリティの概念や世間の風潮といった要因の影響を受けてのことでもある。男性は/女性はこうでなければならないといった強い圧力や、この場面ではこのような振る舞いをしなければならないといった考えが浸透していると、それは個々人の考えや行動パターンにも大きな影響を与える。また、ネガティブな感情を明け透けにすることは、世間ではあまり受け入れられていない。緊張しいな人や不安や恐怖心を感じやすい人は弱いとか頼りないとか思われがちである。社会や他者がそうした感情に寛大であれば、ネガティブな感情に対してもっと肯定的なスタンスでいいんだと思えるようにもなるが、あまりそうはなっていない。だからこそ、マイナスの感情を抑圧したり、否定したりすることで、自分にとっても周りにとっても都合の良い人物像を作り上げて物事に対処するようになる。これは自分の身を守るために自然に人間に備わっているようなものなので、ありとあらゆる感情をそのまま受け入れることは難しい。 

森田療法の厄介なところはこの点にある。森田は負の感情を認め、受け入れるという難問を、誰にでもできることのように唱える。彼自身、そうやって自己受容や根性、気合で乗り切ることでネガティブな感情と上手く付き合えるようになったのだからそう説くのは気持ちとして理解できるが、本来、ネガティブな感情というのは生活するにあたって邪魔なものである。それを抱えたままでは生活や自身の状態が安定したままではいられなくなる。だから、そうした感情を徹底的に否定して、自分の生活圏内から取り除きたいと考えるのはごく自然なことである。

心の持ちようや考え方を改めることで、認知の面や情動の面を改善したことのある人は一体どれくらいいるのか。森田療法のようなあるがままの自分を受け入れるというスタンスは、一時的には効用があっても、とても長きに渡ってその状態が続くものではないのではないか。結局はまたいつもと同じようにネガティブな感情に振り回される状態に戻るのではないかと思う。自己受容の考えを徹底的に主張して認知の歪みを改善させ、個人の感情や心の持ちようをコントロールすることは容易くできることではない。そして、それは言葉で執拗に念じただけで改善できると甘く考えない方もいい。

当ブログの文章や画像を無断で転載することは厳禁です。もしそうした行為を働く者がいた場合、然るべき法的措置を取らせていただきます。